こんにちは!船橋市のスカイワードミュージックスクールで、幼児音楽コース/ピアノコースを担当する江口莉永(えぐち りえ)です。今回のブログでは、10月にポーランドで開催された『ショパン国際ピアノコンクール』について、振り返ってお送りいたします。
セミファイナルを現地で聴いて
5年に一度開催される『ショパン国際ピアノコンクール』。今回わたしは、約2週間にわたって行われる審査のうち、全3日間の3次予選(セミファイナル)を聴きにポーランドの首都ワルシャワに行ってまいりました。
振り返れば、わたしがこのコンクールの存在を知ったのは中学生のときだったと思いますが、実際に自分自身が現地に聴きに行くことになろうとは想像もしていないことでした(笑)
2019年の年末、鑑賞チケットが偶然手に入り、その後パンデミックによる思いもよらぬ開催1年延期。紆余曲折ありながらも、ようやくワルシャワにやってこれました…。コロナ禍での渡航はかなり迷いましたが、今では聴きに行って良かったと心から満足しています。到底忘れられない音楽体験となりました。
オンライン配信で世界中が注目
ショパンコンクールで繰り広げられる演奏は、すべてリアルタイムでYouTubeを通じてオンライン配信されます(ご視聴になった方も多いのではないでしょうか?)。なお、ワルシャワと日本の時差は7時間もあるので、これを聴くために寝不足になったという方も身近にかなりいました(笑)それほど世界中が注目しているコンクールなんだなと、あらためて思わされます。
わたし自身、配信を通じてどんなコンテスタント(出場者)がいるのか、誰の演奏に注目しようかと、かなり予習しました。ただ、1次予選では90名近くいたコンテスタントも、2次予選で約40名、3次予選(セミファイナル)では約20名、ファイナルでは10名程度にどんどん絞られていくため、次のラウンドに進めるかは2人に1人。
1次と2次予選で素晴らしい演奏をした(ように聴こえた)けれど、やはりコンクールは狭き門…。「受かるだろう!」と確信していたコンテスタントの名前が呼ばれないと、本人じゃないのにものすごく胸が苦しくなります。
セミファイナルならではの楽しみ
わたしが聴いたセミファイナルでは、ソナタ(もしくは前奏曲)とマズルカをプログラムに含むことをルールに、それぞれ約50分間のステージが披露されます。必ずピアノ協奏曲を弾くと決まっているファイナルに対して、プログラムを自分自身で設計するぶん、得意な楽曲を盛り込むことも可能ですし、自分の「らしさ」や個性が発揮される舞台だと思います。前回2015年のコンクールでも、セミファイナルでは本当にたくさんの名演がありました…!そんなこともあり、すごく期待していたステージでした。
実際、重厚なリサイタルプログラムで臨むピアニストもいる一方、いちばん最後にワルツなどの軽やかな曲想の作品を(まるでアンコールのように)弾いて、颯爽と笑顔で去っていくコンテスタントもいて本当にさまざま。ピアニストの醸し出す雰囲気によって、観客の反応や拍手もかなり異なります。
プログラムを通じてストーリーを届けたり、そのピアニスト独特の雰囲気や印象を観客に与えるということは、同時に、自分がどういうピアニストなのか、音楽でなにをしたいのかを表明するような意味があると思います。そういった面でも、このセミファイナルは一層特別なステージだと思います。
日本人コンテスタントから2人が入賞
今回のショパンコンクールは、日本から2人も入賞者が誕生し(2位に反田恭平さん、4位に小林愛実さん)、国内でもかなり話題になっていますね!すでにピアニストとしてキャリアの長いお二人ですが、わたしはこれまで生演奏を聴いたことがなく…セミファイナルでのステージが初めて生で聴く演奏でした。
なにか個性がきらっと輝いたピアニストでないと、この舞台にはたどり着けないのは百も承知なのですが、反田さんと小林さんのお二人をとってみても、すさまじい個性(しかも、かなり対照的な)を感じました。2015年のショパンコンクールにも挑戦された小林さんは、無駄な動きが一切なく研ぎ澄まされた印象。特に、ノクターンを聴くと「ショパンってやっぱり神様だったんじゃないかな」と思わされるほど。天界から音楽を下ろしているようでした…。
そんな小林さんに対して、反田さんの演奏は「やっぱりショパンも人間だったんだな」と印象が逆転します(笑)。生きる喜び、慈しみ…。たいていショパンの人生は、病気や失恋、郷愁など、悲しみをメインに語られますが、だからといって39年間の生涯ずっと悲しみっぱなしではなかった。ショパンの陽気さや明るさが解放された、温かみを感じる演奏でした。
最後に
長い文章となりましたが、最後までお読みくださりありがとうございます!ハイレベルな演奏を次から次へ聴くことができ、同じ作曲家・同じ作品に向かい合っているのに、これほど多様な解釈と取り組み方があることをあらためて痛感しました(世界とはなんて広いんでしょう)。また、わたし自身どのような演奏をしたいのか、どんな演奏に心惹かれるのか、ということを考える機会にもなりました。
コンテスタントたちのすべての演奏は、YouTubeでアーカイブ動画が残っていますので、今後はぜひ聴いてみてほしいピアニストを少しずつ紹介できればなと思います。またどうぞお付き合いください♪
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